「最後の秘境東京藝大:天才たちのカオスな日常」感想文。
東京藝術大学、そこは芸術に心を引き付けられ創作に夢中になる人々や、音楽を愛する方々にとって憧れの場所だ。
芸術にそこまで興味はなかったがキャッチコピーである「天才達のカオスな日常」に興味をもち本をとった。あるがままを暮らす凡人とカオスと言われるほどの日常を繰り広げている天才とでは、どんな違いがあるのか。そんな好奇心がページを捲る。
物語のはじまりは藝大生でもある作者の奥様の奇抜な日常から紹介される。亀に座りたいから木彫りで陸亀を作り、半紙で全身の型を製作したりと日常ではあまり遭遇しない状況を紹介され愉快な気持ちにさせてくれる。
作者は東京藝術大学の個性ゆたかな人々に興味をもち、4年と2か月の時間を費やした取材内容となっている。
本書を読み進めて強く感じたことは「好き」という感情の大切さだ。この「好き」は誰からも邪魔されず否定されない原動力なのだと思える。例えば音楽が得意だ。と言ってしまえば他者からの上手下手の評価が付きまとってしまうだろう。しかし好きだと言えば、他者からの評価など関係ない。あるのは好きだという気持ちだけだ。その無敵の気持ちが40時間絵を描き続けたり、毎日何時間もの楽器の練習ができるのだと思う。
本書に登場する藝大生は功名心より単純に好きだからやっているという理由に私は心を動かされた。
また藝大生は作り上げることが目標だとイメージしていたが少し違っていた。実際は目の前の作業に没頭し楽しんでいるだけで、燃えるような情熱や行き詰った気迫が感じられないのだ。ほとんどの方々は「ものを作っている時間が好き」「作りたいから作っている」とふわふわした考えだったのだ。まるで完成に興味がないようにも感じられた。
自分は案外そういうものなのだと思い、同時に感銘を受けた。なぜなら私はどうしても目標や結果に囚われ、目の前の事に集中できていないことに気づいたからだ。分かりもしない未来に不安を抱くことで大事な今に没頭したり楽しむことができていない。好きだという感情と好奇心が今に集中をもたらしてくれるなら、それを育ませることに大きな価値があるだろう。
もう一つ心に残った事がある。それはなんでも自由な発想が素晴らしい。コンクリートで車を作ったり楽器を川に沈めたり、口笛をクラッシックに取り入れようとしたりしている。彼らはいたって本気であり作られたレールに沿って走れば成功する世界ではないのだと言う。
一方の私は世の中が作ったレールの上を走っている。そこを走ることが無難なのだと認識しているためレールに沿った考えや行動力になってしまう。
しかしその「無難」はアートには通用しない。彼らは自分でレールを作り自分で行き先を決めている。安定も安心もないその行動はとても勇敢なことだと思う。その冒険心はいつか必ず役に立つはずだ。
本書を通し好きな事とは趣味程度で軽いイメージをもっていたが少し考えを改めようと思う。なにかに打ち込み没頭することは、今を生きている素晴らしい行為であり幸せなのだということだ。没頭することにより、一秒一秒生きているという実感が増えれば人生は充実するだろうし、ネガティブも軽減すると学んだ。
また、出てくる方々の話がとにかくおもしろい。音楽やアートの世界について熱烈に話しをしてくれた内容一つ一つに興味が沸いてしまう。一生懸命何かに取り組んでいる人は面白い人間になるのだと自分は思った。
最後に、世の中には芸術以外に様々なジャンルが存在する。例えばスポーツや料理などがあり、夢中になっている方はたくさんいるだろう。スポーツには何種類もの競技が存在し、料理にも何種類ものレシピがある。この一つ一つに面白い可能性があるのならば自分たちの住むこの世の中は面白いことで溢れているということになる。
そしてもう一言付け加えれば、私たちは「おもしろい事」に囲まれながら生きていることになるだろう。
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